の物語




最初は全てが無だった。
そこに一つの生き物が現れた。
それは「全知全能」と呼ばれる者だった。
彼は口付けをする事でものに命を吹き込む力を持っていた。


ミュウは身に着けていた宝石に命を吹き込んだ。
金剛石は時空の神となり真珠は空間の神となった。

彼らの誕生により時が生まれ、生きる空間が創られた。
ミュウは他の宝石にも命を吹き込み彼らをその空間に解き放った。
彼らは後に神と呼ばれる存在になった。


ミュウはトパーズにも命を吹き込んだ。
それは知識と感情と意思を司る神となった。

否、なる筈だった。
ミュウが身につけていた宝石の中でも割れやすく脆かったそれには三つの力は大き過ぎた。
巨大な力に耐えられなくなったトパーズは三つに割れ、割れてしまった衝撃でそれぞれ欠落した神が生まれた。

黄色のトパーズは知識を司り意思が欠落した神に。
ピンクのトパーズは感情を司り知識が欠落した神に。
青いトパーズは意思を司り感情が欠落した神に。
この三つの神々が誕生した事で生き物に意思と感情と知識が芽生えた。
しかし彼等の欠陥したモノは戻ることはもう、無い。


ミュウはさらに青玉・紅玉・翠緑にも命を吹き込んだ。
彼らは一つの場所に留どめる筈だったが、三つの宝石は命を吹き込んだ瞬間に空間中に散らばってしまった。

海を創りし青玉の彼の人は
ずっと孤独で 寂しくて哀しくて恐ろしくて涙を流し続けた。
その涙は海となり やがて植物や人類に水の喜びを与える。

陸を創りし紅玉の彼の人は
いつまで経っても一人のままで 自分に傷を付け始めた。
傷口から流れた血は大地となり 世界に土台が完成した。

宇宙を彷徨いし翠緑の彼の人は
星を集めれば月が出来、月明かりを集めれば太陽が出来、
水を口にすれば水星
月を歌えば金星
日光と遊べば火星
花を愛でれば木星
大地を歓喜すれば土星
天を仰げば天王星
海に触れれば海王星
死の悲しみを知れば冥王星
彼の一人遊びが宇宙を賑やかにした。

そうして生まれた三つの空間に多くの命が芽生えた。
芽生えた命は後にヒトとポケモンと呼ばれる物だった。
神々とヒトとポケモンは互いに共存して生きようとした。



長い年月が過ぎた。
神々、ヒト、ポケモンは長い時間をかけて互いを理解し始めた頃だった。
新たに三つの光が生まれた。
それは海で生まれた者でも陸で生まれた者でも宇宙で生まれた者でも、
全知全能のミュウが創りだした者でもなかった。

ひとつは「森羅万象」の力を宿したミュウ。
ひとつは「全てのはじまり」の力を宿したミュウ。

この二つのミュウの誕生は世界の秩序を狂わせた。
神々は天界へ、ヒトとポケモンは下界と二つの世界に隔てられた。
二つの世界は下界に在る境界線の街という通路だけ残し完全に隔絶してしまった。

もうひとつ、生まれた筈だった光が在った。
この光はなんのちからも宿すことが出来ず下界へ堕とされてしまった。

はじめ天界に住んでいたミュウたちは境界線の街に腰を下ろした。
下界の一部では世界を隔てたふたつのミュウを邪険に見る者もいた。
しかしその街はミュウたちをうけいれ、神々を崇拝した。
後にこの町は「理想郷 リベルタス」と呼ばれるようになる。


3つのミュウはリベルタスの人々とともに時を過ごした。
リベルタスには人もポケモンも差別されることなく暮らしていた。
太陽も、月も、花も、全てが輝いていた。
しかし平和な時間は長くは続かなかった。
全知全能のミュウが死んだ。


その時より下界で強大な勢力を誇っていた二つの国があった。
二つの国は二つのミュウを引き離した。
己の私欲、私情の為に。
リベルタスの人々はミュウを守ろうと反抗した。
しかし所詮小さな街の力は敵わなかった。
多くの血が流れた。

二つの国はそれぞれミュウを保持し、世界を我が物にしようと争い続けている。



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